建築物省エネ法

2020年省エネ法の改正で変わる5つのポイント

2020年も7月を迎え、少しずつ、改正された新しい省エネ法が動き出しています。

非住宅における省エネ適判の適用範囲拡大や、新たに創設される説明義務制度、省エネ届出の提出期限緩和、地域区分の見直し、簡易計算手法の導入など、まだなんとなく知っているだけの省エネ法の改正をポイントをおさえながら、少しずつ理解していきましょう。

300㎡以上の非住宅が省エネ適判になると対象物件数が今の6倍になる

まず、2021年4月より施行が予定されている、省エネ適判の範囲拡大から見ていきましょう。

省エネの届出に該当していた非住宅物件は平成29年度建築着工統計で約14,000棟あり、これらがすべて省エネ適判に変わります。

その数はなんと、現在の約6倍に相当します。

省エネ計算の届出は、省エネ基準への適合義務はなかったので、省エネ性能を計算し届出書にまとめ、所管行政庁へ提出することで基本的には終わりです。しかし、省エネ適判では省エネ基準への適合義務があり、さらに完了検査のときに省エネ適判の検査も行われます。

工事の中に変更があった場合には、変更申請が必要になりますし、変更の内容によってはプラスで再審査費用がかかってしまいます。

この辺りは「省エネ適判と省エネ届出の違いとは?」で詳しく説明していますので、参考にしてみてください。

アイキャッチ
省エネ適判と省エネ届出の違いとは?省エネ適判は建築確認と連動しています。 計画変更などが発生すると再計算や再審査が発生し、時間んもコストも余分にかかってしまいます。 建築主さまのためにも正しく理解して無駄のない建築計画を組み立てましょう。...

つまり、審査機関ではかなりの業務量増加が予想され、省エネ計算の代行会社には省エネ基準に納めるための技術力や提案力が求められるようになります。

審査機関の業務量の増加というのは、審査スピードに大きく影響してきます。

これまでギリギリのスケジュールで、なんとかおろしてくれていた審査が、人手不足でおろせなくなったりします。

審査機関によっては人員補強を少しずつ進めているところもあるようですが、今まで通りの対応というのは期待できないかもしれません。

300㎡未満の建物(住宅・非住宅)にも説明義務で省エネ計算が必要なる

今回の省エネ法改正で新設される300㎡未満の建物(住宅・非住宅)の説明義務制度についてですが、これは建物が省エネ基準に適合しているかどうかを、省エネ計算に基づいて判定し、建築士から建築主へ図1の様な書面をもちいて説明する制度です。

図1:建築士から建築主への説明書イメージ

説明義務書類(適合)
説明義務書類(不適合)

説明で使用したこの書面は建築士法省令の改正で、建築士事務所の保存図書に追加されます。ただし行政への手続きは不要です。

この説明義務は建築主が省エネ性能に関する説明を希望したときに適用され、説明は希望しないという意思を建築主が書面で表明すれば、説明義務は適用されません。

しかし、平成30年に3200人を対象に行われたインターネット調査では、そのうちの約85%の人が住宅を購入するときに、省エネ住宅の検討をしたいといっていることなどから、省エネ性能の説明を希望する人の数は多くなるのではないかと予想されます。

そこで、政府が準備を進めているのはモデル住宅法と小規模版モデル建物法といった簡易的な計算手法です。(記事の後半で詳しく説明しています)

簡易的な計算手法を導入することで手間をかけずに省エネ性能を算出し、説明までの流れをスムーズ行うのが狙いなのですが、実用的ではない部分が隠れていました。

計算を簡易的にするために、入力項目を減らしたり、入力方法を選択式にしています。

簡略化したことにより、従来の計算方法よりも計算結果が悪く出るようになっています。

つまり、法改正で新たに追加される計算方法を使おうと思うと、建物は省エネ基準をクリアするために、より高い省エネ性能が求められるようになります。

もし、建築主が省エネ基準をクリアして欲しいと言ってきた場合、建物の設計を変えるか、従来の計算方法で計算しなおす、といったことも起きてきますので、そういった手間を考えると初めから省エネ計算の代行会社に依頼した方が楽かもしれません。

省エネの届出は提出期限が緩和されても楽にはならない

現在、省エネ計算の届出は、着工の21日前までに所管行政庁へ提出しなければなりませんが、法改正によって届出の提出期限が着工の3日前までに緩和されます。

ただし、住宅性能評価やBELSを利用した場合に限ってのことで、それ以外の場合は従来通り着工の21日前までの提出になります。(図2)

図2:省エネ届出の提出期限緩和イメージ

実際には、住宅性能評価やBELSを毎回利用している方は少ないと思います。

省エネの届出期限を延ばすためだけに費用と手間をかけて、住宅性能評価やBELSをとったりする方はあまりいないですよね。そう考えていくと、この制度の恩恵を受けられる方というのも限られてきそうです。

地域区分が見直され約30%の地域で省エネ基準が変わる

今回の省エネ法改正で、地域区分の見直しが行われました。

従来の3,227の市町村から、市町村の合併などを踏まえた1,719の市町村をもとに区分けが行われました。

区分数は従来の8地域から変わりありません。

この地域区分の見直しにどんな意味があるかというと、約30%の地域で省エネ性能の判定結果が変わってしまう可能性があるということです。
(令和元年8月8日建築物エネルギー消費性能基準等小委員会の説明会資料に基づく)

省エネ性能の判定基準や省エネ計算の中で用いられている係数は、地域区分によって決まるので、地域区分の変更前と変更後では計算結果や判定基準が変わってしまうことになります。

新しい地域区分は通年の外気温の平均値等を推計したデータや、市町村の意見を踏まえて見直されます。

またこれとは別に、地方公共団体が各地域の特殊性などに応じた、省エネ基準の強化を条例で行えるようになりました。

条例で省エネ基準が強化された場合、省エネ適判・省エネ届出・説明義務の各制度に適用される可能性がありますので、建設地の省エネ基準が強化されているかどうかの確認が重要になります。

新しく追加される簡易計算方法

今回の法改正で、省エネ計算がより簡単に行える、新たな計算方法が導入されます。これらの計算方法は、従来の計算方法に変わるものではなく、従来のものとあわせて運用されます。(図3に法改正後の全計算手法をまとめました)

図3:これからの計算方法のまとめ

これは、新たに増えた計算方法ではカバーできないケースがすでに存在していて、そういったものは従来の計算方法を用いて計算が行われることを示しています。

簡易的な計算方法というのは、入力項目や評価内容を限定し、省エネ性能を判定することに特化しているため、BELSや住宅性能表示制度などほかの制度にはほとんど使えない計算方法になっています。

簡単に各計算方法のポイントを押さえておきましょう。

外皮基準の住棟評価

従来の共同住宅の外皮基準は住戸単位で判断しているため、1戸でも基準をクリアできなければ住棟としては基準不適合でした。(図4)

図4:住棟評価イメージ

住棟評価コメント

これが今回の改正によって、外皮基準不適合の住戸があっても、全住戸の平均値が下記の基準値以下であれば住棟として外皮基準適合と判断されるようになりました。

住棟評価外皮基準

また、共同住宅の一次エネルギー消費量を計算するときに、これまでは共用部分も計算に含めていました。

それが今回の省エネ法の改正で、共同住宅の共用部は計算に含めても含めなくてもどちらでも良いということになりました。

共同住宅の共用部分というのは計算の手間はあるものの、計算に含めた方が計算結果が良くなる傾向がありますので、必ずしも作業の手間として省けるものではありません。

外皮性能の住棟評価と共用部分の計算省略はBELSでも利用できますが、住宅性能表示制度には利用できません。 住宅性能表示制度が、もともと住戸ごとの性能を評価する制度であるためです。

フロア入力法

従来の計算方法で、これも住戸ごとに一次エネルギー消費量や外皮性能を計算していましたが、今回の省エネ法改正によって、各階ごとで計算しても良いということになりました。(図5)

図5:フロア入力法イメージ

フロア入力法

フロア入力法を使用した場合でも、さきほどの「外皮基準の住棟評価」や「共用部分の算入・不算入」を合わせて使うことが出来ます。

フロア入力法を利用した場合の計算結果は、従来の方法で計算したものよりも計算結果は悪くなります。

これも安全側の性能値が出るように計算プログラムの中で設定されているためです。 フロア入力法はBELS、住宅性能表示制度ともに利用することができません。

モデル住宅法

モデル住宅法で外皮性能を計算する場合は地域区分、構造、断熱工法を選択して、熱貫流率や日射熱取得率などの数値をカタログから拾って入力し、計算することが出来ます。(図6)

図6:外皮性能の簡易計算シート

一次エネルギー消費量の計算はさきほどの外皮計算で求め外皮性能(UA値、ηAC値)と設置する設備の性能を選択式で入力することでポイントが自動で算出されます。

設備ごとに算出されたポイントの合計が100以下になれば一次エネルギー消費性能の省エネ基準を満たしたことになります。(図7)

図7:一次エネルギー消費量の簡易計算シート

モデル住宅法もフロア入力法と同じように、詳細法で計算したときよりも計算結果は悪くなります。

また、現在予定されているモデル住宅法では太陽光発電設備や付加断熱は評価できませんので、これらを計算に含めたい場合は従来の計算方法を使用します。

モデル住宅法も省エネ基準の判定に特化した計算方法であるため、住宅トップランナー制度、性能向上計画認定制度、低炭素建築物認定制度、住宅性能表示制度、BELS取得などには利用できません。

小規模版モデル建物法

小規模版モデル建物法は従来のモデル建物法から入力項目数を約90個から約30個に減らしたもので、基本的な計算方法に変更はありません。(図8)

図8:小規模版モデル建物法イメージ

小規模版モデル建物法が利用できるのは300㎡未満の建物だけです。

入力項目は外皮、各設備の主な仕様のみとしているため、他の計算方法同様に従来のモデル建物法よりも計算結果は悪くなります。

簡易計算手法が導入されても、利用できるケースは限られていますし、民間の申請機関が関わる制度ではほとんど利用できないことから、申請機関の業務量増加を抑える効果もほとんど期待できないようです。

まとめ

今回の法改正で、省エネ適判の適用範囲が広がり、300㎡未満の建物にも省エネ計算が必要になることで、より多くの人が省エネ法や省エネ計算に係るようになります。

これまで省エネの届出でよかったものが省エネの適判に変わることで設計者に求められる対応や、省エネ計算の代行会社の選びかた、簡易計算方法が使える建物の条件など、省エネ法の改正内容が施行されてから慌てないためにも、正確な情報収集をしながら少しずつ考えて行いきましょう。

当ブログでも随時情報配信を行っていきますので活用してください。

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