建築物省エネ法

2024年4月施行の省エネ法改正のまとめ

2024年4月より施行される省エネ法改正は、省エネ基準の引き上げがあり、どのような対応が必要か疑問や不安をお持ちの設計者は多いのではないでしょうか。

改正される内容は、延床面積が2000㎡以上の大規模非住宅について、用途に応じて基準値が15〜 25%引き上げられます

本記事では、今回の省エネ法改正の以下の3つのポイントについて解説します。

・省エネ法改正の経緯
・2024年4月施行の改正内容
・省エネ法改正への対応

省エネ法改正の経緯

2023年6月17日に「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(省エネ法改正)が公布されました。

その後、2024年4月1日よりその一部が施行されるという技術的助言が発表されました。

省エネ法改正は、以下の3つの目標に向け建築物の省エネ性能の一層の向上を図る対策の抜本的な強化や、建築分野における木材利用の更なる促進に資する規制の合理化などを講じるものです。

・2030年度の温室効果ガス46%削減
・2050年カーボンニュートラル
・第6次エネルギー基本計画

この3つの目標を基に、段階的に省エネ性能の向上を目指し、2024年4月に一部の基準が引き上げられます

2030年度の温室効果ガス46%削減

2021年10月22日に地球温暖化対策計画が閣議決定され、日本政府は2030年度において温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すことを表明しています。

地球温暖化対策計画に位置付ける主な対策として、「再エネ・省エネ」「産業・運輸」「分野横断的取組」の大きく3つが掲げられております。

この中で建築に関連する「再エネ・省エネ」の対策として、以下の3つが示されています。

・改正温対法に基づき自治体が促進区域を設定
・地域に利益をもたらす太陽光発電等の再エネの拡大
・住宅や建築物の省エネ基準への適合義務付け拡大

2050年カーボンニュートラル

2020年10月に、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。

カーボンニュートラルで示している温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするというのは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

このカーボンニュートラル実現への基盤となる重点対策として、以下の3つが建築的に関係する項目として挙げられています。

・太陽光発電の設置
・公共施設等における徹底した省エネや改修時のZEB化誘導
・省エネ性能等の向上

第6次エネルギー基本計画

第6次エネルギー基本計画は、2021年10月22日に閣議決定されました。

エネルギー基本計画は、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に環境への適合(Environment)を図る、S+3Eの視点が重要とされています。

第6次エネルギー基本計画では、以下の2つを重要なテーマとして策定されています。

・2050年カーボンニュートラルの道筋を示すこと
・エネルギー安定供給の確保やエネルギーコストの低減に向けた取組を示すこと

2024年4月施行の改正内容

2022年10月、国土交通省より設計者・施行者へ省エネ基準見直しについて以下の3つのポイントについて案内がありました。

1、大規模非住宅建築物の省エネ基準を引き上げ
2、用途毎の基準値の水準が引き上げ(現行省エネ基準を15~25%強化)
3、2024年4月に施行予定

その後、2023年6月に国土交通省より、日本建築士会連合会等の関係機関に対して以下の事務連絡がありました。

1、大規模非住宅建築物の省エネ基準の具体的な引き上げ基準
2、現存する建築物の増築・改築を行う場合の経過措置
3、計算支援プログラムにおける評価の合理化

対象となる建物と法改正後の省エネ基準

今回の法改正で対象になる建物と用途ごとの新基準は以下のようになっています。

対象用途:非住宅建築物

対象規模:2,000㎡以上

対象工事:新築・増築・改築

法改正前の省エネ基準

用途一次エネルギー消費量基準(BEI)
省エネ基準全用途1.0

法改正後の省エネ基準

用途一次エネルギー消費量基準
(BEI)
省エネ基準工場等0.75
(基準から25%削減)
事務所等
ホテル等
百貨店等及び学校等
0.8
(基準から20%削減)
病院等
飲食店等及び集会場等
0.85
(基準から15%削減)

改正省令の施行日(令和6年4月1日)以降に、建築物エネルギー消費性能適合性判定を申請する建築物から、引上げ後の基準への適合が必要となります。

既存建築物の増築・改築を行う場合の経過措置

既存建築物の増築や改築を行う場合は以下の経過措置が設けられています。

対象建物:2024年4月の施行日に現存する建物

対象工事:増築・改築(同一敷地内に別棟を増築する場合は、新築として扱われる)

省エネ基準:非住宅部分について BEI≦1.0 に適合すること

経過措置期限:2025年4月

省エネ法改正施行後に工事着手する建築物の増築・改築については、当該増築・改築をする建築物の部分のみを省エネ基準に適合させることされています。

計算支援プログラムにおける評価の合理化

非住宅建築物の省エネ性能を算出する計算支援プログラムとしては、現在以下の2種類があります。

・詳細計算のエネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)Ver.3
・簡易計算のモデル建物法入力支援ツール Ver.3

これらは、国立研究開発法人 建築研究所のホームページ上で公開されており誰でも使用可能です。

今回の省エネ法改正による基準引上げに対応し、今年秋以降は、モデル建物法入力支援ツール Ver.3がバージョンアップし合理的な評価ができる予定となっています。

省エネ法改正への対応

今回の省エネ基準の引き上げに対しては、法改正までに以下の2点を確認しておくことで、設計時の仕様決定がスムーズに対応できることになります。

・現状の省エネ達成率
・今回の省エネ基準引き上げへの対応ポイント(外皮性能と設備)

現状の省エネ達成率

国土交通省が公表しているH30〜R2年度の省エネ性能確保計画の提出実績(全地域、新築、2,000㎡以上、単一用途)から、以下の結果が見えてきます。

・工場等のBEI≦0.75への適合率は9割程度
・百貨店等、学校等、事務所等、ホテル等のBEI≦0.8への適合率は6~8割程度
・病院等、飲食店等、集会所等のBEI≦0.85への適合率は4~6割程度

工場等については、省エネ基準の適合対象となる項目が照明のみとなるため、比較的達成しやすい用途であることが分かります。

工場等以外の用途については、半分程度の達成率となることから、今までの設計グレードの見直しも視野に入れる必要があります。

尚、当社調べでは126件中47件が未達であり37%の建物が新しい基準をクリアしていないこともあり、概ね上記の達成率と整合していることがわかります。

省エネ法改正への対応ポイント①外皮性能

現状の省エネ達成率を鑑みると、工場等を除く全用途で未達となる可能性が高く、今まで以上の高断熱仕様を検討する必要があります。

外皮性能については、PAL値の向上だけでなく空調設備への影響があります。

工場等を除く全用途で共通して言えることは、エネルギー消費量の割合が大きい項目は、空調設備と照明設備です。

特に、空調設備においては事務所用途では6割超、集会場用途では7割超と、エネルギー消費量の大部分を占める割合となっています。

空調設備のエネルギー量削減に寄与する外皮性能の向上は、新基準達成のための有効な手段となります。

省エネ法改正への対応ポイント②設備の省エネ化

設備の省エネ化のポイントとしては、以下の5点です。
・負荷低減
・サイズダウン
・高効率化
・省エネ制御
・再生可能エネルギー(太陽光など)

設備種別省エネ化手法
負荷低減空調熱負荷外建築計画工夫、外皮性能向上、外気冷房採用等
サイズダウン空調熱負荷設計余裕度低減、外皮性能向上、全熱交換器導入
高効率化空調定格効率、照明器具定格消費電力、給湯設備空調熱源高効率化、照明光源・器具の高効率化、給湯熱源機種の高効率化
省エネ制御空調制御、換気制御、照明制御空調変風量制御採用、換気高効率モーター・インバーター・風量制御の採用
再生可能エネルギー太陽光発電

工場等を除く全用途でエネルギー消費量の大部分は、空調設備と照明設備です。

空調設備のエネルギー消費量を抑える外皮性能強化と機器の高効率化、設計余裕度低減により、全体を通して大幅な省エネ化を図ることが可能です。

また、太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用することで計算結果を良くすることが可能です。

まとめ

2024年4月より施行される省エネ法改正は、延床面積が2000㎡以上の大規模非住宅について、用途に応じて基準値が15〜 25%引き上げられます。

今回の改正は、2050年カーボンニュートラルを目指した段階的なもので、2030年には、新築建物で確保するZEB水準(BEI0.5)に向けた中間点という位置づけです。

今後も更なる省エネ性能の強化が法改正により求められていきます。

現状の設計がどれくらいの省エネ性能をもっているか、どうしたら下がるかなど今始められることから少しずつ法改正に備えていきましょう。

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