2004年の名古屋市の取り組みを皮切りに多くの自治体でCASBEEの導入が進み、全国での届出物件数も2019.3.31時点で26,000件を超えました。
CASBEEが利用できる制度も増え、当社へのお問い合わせも多くなりましたので、CASBEEの仕組みや届出義務をわかりやすくまとめてみました。 今後のためにもかんたんに理解しておきましょう。
CASBEEが作られた目的とは
CASBEEとは地球環境問題の改善を目的に日本で作られた、建物の環境性能を評価するための評価システムです。
CASBEEが開発される前にも古くから建物の評価は行われていましたが、昔の評価方法では建物を利用する人の生活環境の向上を主にめざしたものになっていて、建物の外側に対する配慮はされていませんでした。
そんな中、都市部での大気汚染やビル風問題に一般市民の関心が高まり、地球の環境問題が表面化したことでサスティナビリティを意識した建物が注目されるようになりました。
サスティナビリティとは、「サスティナブル=持続可能な」と意味で使われることが多く、人々の日々の活動が自然や資源に悪い影響をあたえず、その活動を維持できることを目指しています。
CASBEEはこういった、建物内の生活環境と外側の自然環境の両方に及ぼす影響をそれぞれの側面から評価できるように作られました。
これは、CASBEEの最大の特徴でもあります。
CASBEEの特徴とは
地球の環境問題に対する取り組みは世界各国で行われており、代表的なものにはイギリスのBREEAMやアメリカのLEED、カナダのGBToolなどがあります。
これらの評価システムでは環境に対するプラスの側面とマイナスの側面の評価点を合計して評価するため、プラス面とマイナス面の分類や把握が難しくなっていました。 その点、CASBEEの評価方法は、まず建物を敷地境界で区分した仮想閉空間(図1)を設けて、その内側を住環境レベルを示すQ(Quality)、外側を環境負荷のL(Load)として別々に評価を行うことができます。
図1:仮想閉空間の概念に基づく[Q:建築物の環境品質]と[L:建築物の環境負荷]の評価分野の区分
この住環境Qと環境負荷Lを別々に評価するというところがCASBEEの最大の特徴になります。
さらにCASBEEではこの住環境Qと環境負荷Lを環境性能効率を示すBEEに集約して(図2)、建物の環境性能をS、A、B+、B-、Cの5つのランクに振り分けていきます。(図3)
この様にCASBEEは建物の環境性能が非常に分かりやすく評価結果(図4)に出てきますので、一般の人たちにも受け入れられ広く支持を集める評価方法となりました。
図2:環境性能効率BEEの算出方法
ランク | 評価 | BEE値ほか | ランク表示 |
---|---|---|---|
S | 素晴らしい | BEE=3.0 以上 かつ Q=50 以上 | ★★★★★ |
A | 大変良い | BEE=1.5 以上 3.0 未満 | ★★★★ |
B+ | 良い | BEE=1.0 以上 1.5 未満 | ★★★ |
B- | やや劣る | BEE=0.5 以上 1.0 未満 | ★★ |
C | 劣る | BEE=0.5 未満 | ★ |
CASBEEで評価するもの、しないものとは
ここでひとつ注意が必要なのはCASBEEは建物のすべての性能を評価しているわけではないというところです。
CASBEEは主に地球環境問題にスポットを当てた評価システムなので、それにあてはまらないものや、すでにそれぞれの専門分野に評価の仕組みがある下記のものなどは評価対象から除外されています。
評価対象
- エネルギー効率
- 地域環境
- 室内環境
- 資源効率
評価対象外
- 審美性
- コスト
- 収益性
- 耐震性
- 防火性
CASBEEは自治体でどのように使われているのか
CASBEEは自治体ごとにカスタマイズされ、サスティナブル建築の認知度向上や市場価値向上のための取り組みに使われています。
地域特性に合わせてCASBEEはカスタマイズされている
建物は地域の特徴に合わせた環境配慮を実現するべきであるという考えに基づき、地域の気候・風土・歴史的背景・経済的背景・条例などに応じて、CASBEEの評価基準を見直したり、評価項目の重要度を変えるための重み係数とよばれる数値を調整して、地域の特徴に合わせたCASBEEの開発を行っています(図5)。
そのため、同じ仕様の建物でも評価で使うCASBEEの種類によっては、評価基準や評価項目の重要度が違うため評価結果が大きく変わります。
評価結果に応じたインセンティブがある
また、CASBEEを使って一定以上のランクを獲得すると各地域によって様々なインセンティブを受けることが出来るようになっています(図6)。
例えば、CASBEE名古屋の評価でSランクを取得すると、容積率の緩和を250%まで受けられるようになりますし、北九州などの様に助成が受けられるようになるケースもあります。
項目 | 自治体名 | 実施内容 |
---|---|---|
総合設計制度等における 容積率緩和の条件 |
名古屋市 | CASBEE名古屋の評価に応じて容積率緩和をさらに割増(通常は200%までのところ、Sランクは上限250%まで緩和) |
埼玉県 | CASBEE埼玉県の重点項目の得点に応じて、容積率緩和を最大20%さらに割増 | |
※総合設計制度の許容要件として利用 大阪市、福岡市、北九州市等 = B+ランク以上で許可 横浜市、さいたま市、千葉市、川崎市、堺市、柏市等 = Aランク以上で許可 |
||
助成制度の 判断基準として利用 |
北九州市 | 住むなら北九州移住推進事業(定住促進支援メニュー)において、市外からの転入世帯の住宅購入・建設に対する助成[選択的用件として、CASBEEによる評価結果がB+以上] |
新潟市 | まちなか再生建築物等整備事業において、採択要件のひとつとしてCASBEEの評価結果を活用[CASBEE新潟でAランク以上] | |
横浜市 | 横浜市ZEH推進事業の採択要件として活用[Aランク以上] | |
川崎市 | 創エネ・省エネ・蓄エネ機器導入補助事業における採択要件としてCASBEEの評価結果を活用[CASBEE-戸建(新築)でAランク以上となる住宅に追加補助] | |
長野県 | 信州健康エコ住宅助成金制度において、助成額が加算される選択基準に採用[CASBEE-戸建(新築)でSランク] | |
見附市 | 見附市住み替え促進中古住宅取得補助制度における判断基準として採用[CASBEE-戸建(新築)の各項目で、市の設定するレベルを満たしていること] | |
顕彰制度の実施 | 大阪府 大阪市 |
おおさか環境にやさしい建築賞 |
埼玉県 | 環境建築住宅賞(一般建築部門) | |
神奈川県 | かながわ地球温暖化対策大賞 | |
京都市 | 京(みやこ)環境配慮建築物 | |
神戸市 | 神戸市都市デザイン賞(地球にやさしいCASBEE建築部門) | |
静岡県 | くらし・環境部環境配慮建築物表彰制度 | |
柏市 | 柏環境配慮建築物表彰制度 | |
堺市 | CASBEE堺建築環境賞 |
図6:自治体によるインセンティブ例(出所:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)
届出義務と表示義務がある
名古屋市を例にとってみていきますと、名古屋市は市民の健康と安全を確保する環境の保全に関する条例に基づき2004年4月からCASBEE名古屋を用いた建築物環境配慮制度を実施しています。
この制度では床面積 2,000平米を超える建築物の新築・増築をする建築主に対し、着工日の21日前までに、CASBEE名古屋の届出を義務付けています。
届出を行ったあとだいたい1ヵ月くらいをめどに名古屋市のホームページで結果シートが公開されます。
届出を行ったあとに変更があった場合には変更の届出も必要になりますし、工事完了時には工事完了日から15日以内に完了届出書を提出することになっています。
名古屋市はこうした取り組みを通して、地球温暖化やその他の環境への負荷低減を図り、評価結果表示シートを公開することで、環境に配慮された建物が評価される市場の形成を目指しています。
他の多くの自治体でも、2,000平米以上の建物にCASBEEの届出義務を設定していますので、もし、計画中の建物が2,000平米を超えている場合、建設予定地にある自治体にCASBEEの届出義務などがないかを確認しておきましょう。
届出制度の他にも、表示制度というものがあります。
表示制度は広告などを行う際に、評価結果の表示を義務付ける制度で、大阪市、横浜市、京都市、大阪府、神戸市、川崎市、福岡市、札幌市、埼玉県、神奈川県、熊本県、柏市、堺市で実施されています。 これは賃貸や分譲を行う際に、CASBEE の届出結果の表示(図7)を義務化している制度です。
CASBEEを使った助成制度のまとめ
最後にCASBEEを使った主な助成制度を分かりやすく表にまとめておきました。
内容はその時々で変わりますし、用途や規模によっては使いづらいものもありますので、補助金の利用を考えているかたは専門の補助金コンサルタントなどに相談して建物にあった助成制度を選んでいきましょう。
事業名 | 実施者 | 事業概要 | CASBEE活用 |
---|---|---|---|
サスティナブル建築物等先導事業(省CO2先導型) | 国土交通省 | 省CO2の実現性に優れたリーディングプロジェクトとなる住宅・建築プロジェクトを公募によって募り、予算の範囲内において、整備費等の一部を補助する。 | 総合的な建築物の環境効率について、CASBEEによる評価結果がSランク又は同等以上の性能を有するもの(非住宅・中小規模建築物部門) |
低炭素建築物認定制度 | 国土交通省 | 「都市の低炭素化の促進に関する法律」(都市低炭素化促進法)に基づき、都市の低炭素化に寄与する低炭素建築物を認定する。 | 建築物の低炭素化の促進のために誘導すべきその他の基準(選択的項目)として、所管行政庁がCASBEEを基準に定めることが出来る。 |
耐震・環境不動産形成促進事業 | 環境不動産普及促進機構(Re-Seed機構) | 老朽・低未利用不動産について、国が民間投資の呼び水となるリスクマネーを供給することにより、高い耐震・環境性能を有する不動産の形成を促進する。 | ・CASBEEによる評価がAランク以上(既存建築物の建替えの場合にあってはB+ランク以上)であること。 ・CASBEEにおけるライフサイクルCO2の評価結果の緑星表示が3つ以上であること。 |
共同型都市再構築業務 | 民間土地開発推進機構 | 民間都市開発事業の施工に要する費用の一部を機構が負担、民間事業者とともに該当事業を共同で施行し、これにより取得した不動産を長期割賦済条件で譲渡する制度。 | CASBEEによる評価結果がAランク以上またはこれと同等の環境性能があること。 |
CASBEEを利用したおもな助成制度(出所:一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)
まとめ
サスティナブル建築を実現していくために、CASBEEの評価方法は海外の評価システムと比較しても非常に優れた評価方法です。
自治体などでも積極的な運用が行われていますので、今後ますます身近なものになって行くのではないでしょうか。
今はまだ、届出義務の範囲は2000平米以上の建物に限られていますが、省エネ適判の様に適用範囲が広がって多くの建物で必要になったり、そもそも届出から適判にランクアップしていくかもしれませんね。
全国200社を超えるお客様の設計関連業務を幅広くサポート!