CASBEE不動産は竣工後1年以上の既存建物の不動産価値をランク付けするために使われる評価システムで、私たちが普段、自治体への届出や補助金の申請に利用しているCASBEEとは少し利用目的が異なります。
CASBEE不動産は海外で使われているLEEDやBREEAMなどの評価システムともCASBEE不動産の評価結果は読み替えが可能になっているため、日本だけでなく、世界の不動産関係者や機関投資家の間でも注目が集まっています。
サスティナビリティの高い、エコで丈夫な建物の不動産価値は今後ますます高まり、その評価方法のひとつとして、必要になっていく知識のひとつだと思いますのでこの機会に簡単に理解しておきましょう。
CASBEEの全体的な解説は以前の記事で詳しく説明していますので、こちらをご覧ください。
CASBEE不動産の概要
CASBEE不動産は既存建物の不動産価値を高めることを目的に2012年に「CASBEE 不動産マーケット普及版」として作られました。
CASBEE不動産の規格に適合する建物は建物全体の上位30~40%と言われているため、取得できているだけで他の建物との差別化を図ることができます。
CASBEE不動産は、主にマーケット関係者(投資家・不動産会社・ビルオーナー・テナント・不動産鑑定士)が扱うことを想定したツールです。
海外の機関投資家や外資系企業が日本の不動産を検討する際にも、CASBEE不動産の評価をもとに投資の判断が行われます。
それは海外の機関投資家や外資系企業が「環境や社会などへの配慮」が持続可能な投資に不可欠なものとして意識されているためであり、CASBEE不動産が世界で利用されている、評価システム(LEEDやBREEAM)と読み替えが可能であることが主な理由です。
2021年からCASBEE不動産の認証数が増えている
CASBEE不動産は2012年の「CASBEE 不動産マーケット普及版」にはじまり、評価可能な建物の用途も店舗・オフィス・物流施設・集合住宅・オフィス(改修)、店舗(改修)と段階的に増えてきました。
特にオフィス(改修)、店舗(改修)の評価もできるようになった2021年ごろからCASBEE不動産の認証数が大きく増えました。(下図参照)
増加の背景には2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsが、社会へ広く浸透したことが一つの要因としてあります。
2015年にはパリ協定も締結されており、それを受けて日本で設定された「2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で26%削減する」といった中期目標や、2050年のカーボンニュートラル実現を見据えた二酸化炭素排出量の削減意識が国内で広く高まっていることも挙げられます。
専門知識が無くても評価や取得ができることや評価項目が不動産評価に関連が強い項目に絞って評価基準が策定されているため、作業量が少ないこと、GRESB(https://www.gresb.com/nl-en/)の調査項目である「グリーンビル認証」で加点が受けられることなどもCASBEE不動産の認証数増加の要因として考えられています。
審査機関のビューロベリタスジャパンでも詳しく解説されていますので、合わせてご参照ください
https://kansa.bvjc.com/column/2021/000617.html
CASBEE不動産を取得するメリット
CASBEE不動産の評価結果は世界で共通の指標となっているLEEDやBREEAMなどの評価システムとも読み替えが可能になっています。
そのため、日本に限らず海外の機関投資家や外資系企業へのアピールとしても利用できることがメリットの一つとして考えられています。
また、CASBEE不動産の認証取得はCASBEE建築やウェルネスオフィスと同様に「グリーンビル認証」の加点になることも取得メリットの一つと言えます。
国内外の投資家はEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動を行っている企業にのみ投資を行うというESG投資を宣言しています。
ESG投資の宣言を行う国や投資家は年々増えているため、環境に配慮した建物の価値や必要性はますます高まっていくと思われます。
CASBEE不動産を利用するための条件
CASBEE不動産は既存の建物を評価するためのツールですが、利用するためには下記の条件をクリアしていなければなりません。
CASBEE不動産を利用するための条件
- 竣工後1年以上の建物であること
- 建物全体の床面積に対して一定割合以上、事務所、店舗、集合住宅、物流施設、事務所(改修)、店舗(改修)が含まれていること
- 必須評価項目をクリアしていること
竣工後1年以上経っている必要があるのには、CASBEE不動産の必須評価項目の中に、1年間の運用データが必要になる項目があるためです。
また、CASBEE不動産は建物全体の評価に加えて、区分所有建築物やフロア単位等の部分的な評価が可能であるのも特徴のひとつです。
CASBEE不動産の評価方法
CABEE不動産の評価項目は大きく以下の5つに分類され、それぞれに必須評価項目が設定されています。
CASBEE不動産の主な評価項目
- エネルギー/温暖化ガス
- 水
- 資源利用/安全
- 生物多様性/敷地
- 屋内環境
この5つの評価項目の中にそれぞれ必須評価項目が用意されています。
その必須評価項目を全てクリアすることがCASBEE不動産の評価を行う上での必須条件になります。
さらに各項目で用意された加点評価項目で評価を行い、最終的に100点満点で、その点数に応じてB、B+、A、Sのランクが決まります。
加点評価項目はレベル評価になっていて、項目ごとにレベルの最大値は異なりますが、基準とされるレベル3を全ての加点評価項目で取得できると、60点となりB+ランクが取得できるという仕組みになっています。
以下の表が点数とランクの相対表になります。
CASBEE不動産で取得したランクは、従来のCASBEEで取得したランクに相当するものではりますが、自治体ごとに義務付けられているCASBEEの届出に利用したり、補助金制度には利用できませんのでご注意ください。
CAEBEE不動産の必須評価項目
CASBEE不動産の評価を受けるために必ずクリアしなければいけない、必須評価項目は下記の項目になります。
詳細は割愛しますが、CASBEE不動産のマニュアルを基に図面で要件を満たしているかの確認を行っていきます。
CASBEE不動産のマニュアルや記入用紙はこちらからダウンロードができます
https://www.ibecs.or.jp/CASBEE/CASBEE_outline/CASBEE_MP.html
①エネルギー/温暖化ガス
- 省エネ基準のクリア
- エネルギー消費量の目標設定
- モニタリングの実施
- 運用管理体制の構築
②水
- 水使用量の目標設定
- モニタリングの実施
③資源利用/安全(1~3のいずれか)
- 新耐震基準に適合していること(1981年基準以降の建物)
- 構造体新指標Is値が0.6以上であること(1981年基準以前の建物で耐震改修を施しているもの)
- 倒壊危険度指標If値が1.0以下であること(1981年基準以前の建物で耐震改修を施しているもの)
④生物多様性/敷地
- 外来生物法の特定外来生物
- 外来生物法の未判定外来生物
- 生態系被害防止外来種
⑤屋内環境
- 建築物環境衛生管理基準の準拠
- 質問票による評価 (建築物衛生法による特定建築物(延床面積が3000m2未満)でない場合) (オフィス、店舗、物流施設の場合)
- 質問票による評価(集合住宅の場合)
- 法定点検(各設備)を行っている
- 設備の定期点検を行っている
- 建築部位(屋内・屋外)の定期点検を行っている
- 中長期的な計画修繕の立案や実施を行っている
CASBEE不動産の加点評価項目
必須評価項目をクリアできたら、より高いランクを目指すために、加点評価項目の評価を行います。
加点評価項目は以下の項目で、必須項目同様にCASBEE不動産のマニュアルを使って評価を行います。
加点評価項目は必須評価項目とは異なり、各項目にレベルが1~3くらいまで設定されており、そのレベルに応じて点数が変わります。
(必須評価項目はクリアしているか否かの確認のみ)
①エネルギー/温暖化ガス
- 1.1 エネルギー使用・排出原単位(計算値)
- 1.2 エネルギー使用・排出原単位(実績値)
- 1.3 省エネルギー(仕様評価)※物流施設・集合住宅のみ
- 1.4 自然エネルギー
②水
- 2.1水使用量(計算値)
- 2.2水使用量(仕様評価)※物流施設、集合住宅のみ
- 2.3水使用量(実績値)※物流施設を除く
③資源利用/安全
- 3.1.1耐震性
- 3.1.2免震・制震・制振性能
- 3.2.1再生材利用率・地域材・木材利用
- 3.2.2廃棄物処理負荷抑制 ※店舗、集合住宅のみ
- 3.3躯体材料の耐用年数
- 3.4.1主要設備機器の更新必要間隔
- 3.4.2設備(電力等)の自給率向上
- 3.4.3維持管理
- 3.4.4 バリアフリー計画
④生物多様性/敷地
- 4.1生物多様性の向上
- 4.2土壌環境品質・ブラウンフィールド再生
- 4.3.1公共交通機関の接近性
- 4.3.2交通結節点への接近性、敷地周辺への配慮 ※物流施設のみ
- 4.4自然災害リスク対策
⑤屋内環境
- 5.1.1自然採光
- 5.1.2昼光利用設備
- 5.2自然換気性能
- 5.3眺望・視環境
CASBEE不動産の取得までにかかる時間
CASBEE不動産は、他のCASBEE認証と比べて比較的短い時間で取得することができます。
実際には評価作業とお客様とのやり取りに1ヵ月、審査機関での審査~下りるまでに2ヶ月の合わせて最短3ヵ月で取得できます。
物件の規模などによって作業や取得にかかる時間は異なりますが、評価対象の面積が11,000㎡くらいまでが最短3ヵ月で取れる物件の目安になります。
まとめ
- 他のCASBEE認証に比べて半分くらいの時間で取得できる
- 必須項目をクリアしないとその後の評価を行えない
- 竣工後1年以上の既存建物でしか使えない
- 利用できる建物用途は事務所、店舗、集合住宅、物流施設、事務所(改修)、店舗(改修)のみ
- 国際的な評価制度のLEEDやBREEAMとも読み替えができる
- グリーンビル認証で加点が受けられる
従来のCASBEEは設計支援や行政支援を目的にしていたため、より専門的な評価要素が強く、取得のハードルも高くなっていました。
CASBEE不動産は建物の長期的な資産価値を担保することを目的としているため、少ない作業と短い時間で取得が出来ます。
その上、国際的な評価制度に読み替えが可能であることもあり、企業イメージのアップや機関投資家へのPRのためにCASBEE不動産を取りたいという要望は増えていくと思われます。
お客様への提案や説明に今回の記事が参考になれば幸いです。
また当社でもCASBEE不動産取得のお手伝いをしております。
お見積りは無料でしておりますので、下記よりお気軽にお問い合わせください。
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