2024年4月から2,000㎡以上の建物で省エネ基準が引き上げられました。
その基準は用途によって15%~25%の引き上げが行われています。
現状の省エネ基準でもクリアするのが難しい用途の建物もあるため、太陽光などの創エネ設備の導入検討が必要になるケースがあります。
省エネ基準の引き上げは今後の法改正で、中小規模の建物にも広がり、最終的にその基準はZEB・ZEH水準まで引き上げられることが公表されています。
今回は省エネ基準の引き上げのロードマップや現在クリアが難しくなっている具体的な用途について、その理由を少し掘り下げて解説していきたいと思います。
2,000㎡以上の建物の省エネ基準
2024年の省エネ法改正で、2,000㎡以上の建物について省エネ基準がBEI 1.0から、用途によって15%~25%引き上げられました。
用途ごとの省エネ基準は下記の通りです。
用途 | 変更後の基準 |
工場等 | BEI 0.75 |
事務所等・学校等・ホテル等・百貨店等 | BEI 0.8 |
病院等・飲食店等・集会所等 | BEI 0.85 |
これらの建物の中には現在のBEI 1.0でもクリアが難しいものがあり、そこからの基準引き上げとなるため、数字を下げるための検討がこれまで以上に難しくなっています。
基準クリアのための検討もスケジュールに含める必要がある
確認申請のスケジュールギリギリで省エネ計算を行って、クリアしないということになると確認申請のスケジュールが遅れる原因にもなりかねませんので、2,000㎡以上の建物は検討作業が必要になることを前提に進めなければなりません。
お客様の中には、省エネ基準をクリアできないと困るという事で、設計の初期段階で一度計算を行い、現状を把握しながら設計を進めていきたいとおっしゃる方も実際に増えてきています。
建築主を含めた調整が必要になる
計算結果を良くするためには省エネ性能の高い機器を使うことはもちろんですが、消費電力の大きい照明や空調設計では省エネ適判を通すことができなくなっています。
建築主もZEBを取るなど、省エネ性能の高い建物を特段望んでいない中で、費用をかけて高性能な設備に変えることにはなかなか理解を示してもらえないので、その辺りの調整や、やり取りが発生することも頭に入れて段取りを進めるようにしましょう。
省エネ基準のクリアが難しくなっている用途
私たちが計算した建物の中にも、その用途の特性上、省エネ基準をクリアさせるために苦労した物件がありました。
その用途というのが、ショールーム、温浴施設、病院や老人ホームです。
ショールーム
ショールームは規模に限らず、省エネ基準のクリアが難しくなる場合は照明がネックになっていることが多く見受けられます。
ショールームは展示品をよく見せるために、一般的な部屋よりも明るくなるように照明の設計が行われています。
そのため、省エネ基準をクリアするためには、照明の数を減らすか、消費電力のより少ない機器に変えるなどの検討が必要になります。
病院・老化ホーム・温浴施設
病院や老人ホームに温浴施設などは基準が上がる前のBEI 1.0をクリアするのもギリギリでした。
その中で新基準のBEI 0.85をクリアが必要になってきますので、計画段階から建築主と情報共有をして、理解を得ながら設計を進めていくことが必要になります。
今後、小規模の建物の基準も上がって行く事が予定されていますので、今設計している建物がどれくらいのBEIなのかを把握して、知らなかったで手遅れにならないようにこまめな情報収集を行っていきましょう。
省エネ基準をクリアするための対策や方法
省エネ計算の結果を良くするために、省エネ性能の高い機器に変えたり、可能な限り機器を減らす検討を重ねた結果、それでも省エネ基準をクリアできなかった場合はどうしたら良いでしょうか?
方法としては計算方法の見直しや太陽光などの創エネ機器の導入検討が考えられます。
計算方法の見直し
一般的に省エネ適判の省エネ計算はモデル建物法を使って計算を行います。
その理由としては、簡易的な計算であるため、低コストかつ短納期で進めることができるためです。
費用と納期は計算を外注したときのものだけではなく、審査機関の手数料や審査時間も含まれます。
モデル建物法の計算は簡易的な計算であるため、その特性上、全ての情報を計算に入力できないため、入力できない部分が影響して不利側に計算結果が出る傾向があります。
これをより詳細な計算方法である標準入力法で計算することで、部分的なものから建物全体の計算結果になるため、一般的にはモデル建物法で計算したときよりも良い計算結果になると言われています。
標準入力法の注意点
ただし、あくまで良い計算結果になる傾向があるだけで、全てのケースにおいてモデル建物法よりも標準入力法の数値が必ず良くなるという保証はないので注意が必要です。
他にも標準入力法で計算を行う場合の注意点として、省エネ計算外注している場合、一度モデル建物法で計算していると標準入力法で計算をやり直すための費用と時間がかかります。
標準入力法の方がモデル建物法よりも費用も時間も多く必要になります。
それでもクリアできるという保証があるわけではないのと、審査機関の審査手数料や審査にかかる時間もモデル建物法に比べて倍かそれ以上になることもあるため慎重に検討が必要になります。
創エネ機器の導入
もう一つの方法として、太陽光などの創エネ機器を導入することで計算結果をよくすることができます。
簡単にBEIは下がりますが、太陽光発電を設置できるスペースが限られていたり、導入コストやランニングコストなどの問題も出てくるためこちらも同様に慎重に検討を進める必要があります。
省エネ基準は2030年までにZEH・ZEB水準になる
対象となる建物の規模も順次中規模や小規模の建物まで拡大されていきます。
そして、最終的に2030年までには全ての建物でZEB・ZEH水準を求められるようになります。
これはZEB・ZEH水準をクリアしないと建物を建てることができなくなるということです。
この内容は既に国交省からロードマップで発表されています。
省エネ基準に関する法改正だけを抜き出してまとめたのが以下です。
- 2024年 2,000㎡以上の非住宅における省エネ基準引き上げ
- 2025年 住宅および300㎡未満の非住宅の省エネ基準適合義務化
- 2026年 300㎡以上の非住宅における省エネ基準の引き上げ
- 2030年までに住宅がZEH水準まで省エネ基準を引き上げ
- 非住宅がZEB水準まで省エネ基準の引き上げ
まとめ
- 2,000㎡以上の非住宅は省エネ基準が15%~25%高くなっている
- モデル建物法は簡易な計算なのでBEIを下げづらい
- BEIを下げるために計算方法を変える、太陽光の設置という方法もある
- 2030年までにすべての建物の省エネ基準がZEHやZEB水準になる
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